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青森地方裁判所 昭和34年(行モ)5号 決定

申立人 飛島良行

被申立人 三沢市長

〃 三沢市教育委員会

主文

本件申立を却下する。

理由

申立代理人は、「申立人と被申立人ら間の青森地方裁判所昭和三十四年(行)第一九号身分確認請求事件の判決確定まで申立人の青森県三沢市教育委員会委員辞職の効力を停止する。」との決定を求め、

その申立理由として主張する要旨は、

「申立人は昭和三十二年十月一日青森県三沢市教育委員会委員に任命されたものであるが、昭和三十四年六月被申立人らに対し書面を以てその職を辞する旨の意思を表明したところ被申立委員会から慰留されたので直ちに右辞意を撤回した。されば申立人はその後も引き続き被申立委員会から委員会開催の通知を受けて同委員会に出席し教育委員の職責を完うしてきた。ところが、その後になつて前記辞職願書が依然被申立委員会の手裡にあるの奇貨として被申立人らにおいて辞職に対する同意(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第十条参照)をする気配があつたので、申立人は同年十月十三日午後二時頃、再度、被申立委員会に前記辞意撤回の意思を明示し同日午後三時三十分頃被申立人市長にも右同様の意思を表明した。

しかるに、被申立人市長はこれを無視し、同日午後四時三十分頃、申立人に対し教育委員辞任に対する同意書を交付し、被申立委員会亦これに同調し、なんら同意の決議もしないのに拘らず今に及んで昭和三十四年十月一日に同意の決議をしたとの虚偽の事実をもつて申立人の教育委員の地位を否定するに至り爾来、申立人に教育委員としての職務を執らせない。仮に同意の決議があつたとしても申立人が辞意を撤回し同委員会がこれを諒承したことは前記のとおりであるからその後に同意をしてもなんらの効力もない筈である。被申立委員会には目下、第一中学校分校設置問題、上久保小学校不正常授業解消のための校地拡張問題、岡三沢小学校屋内体操場建設問題図書館設置計画、基地周辺学校のそう音防止問題その他人事問題等重要案件が山積しており、申立人が被申立人らを相手として青森地方裁判所に提起した教育委員身分確認請求事件(同裁判所昭和三十四年(行)第一九号)の判決確定を恃つてはその間理由もなくこれら案件の処理に関与することを妨げられ申立人に償うことのできない損害を生ずることになりこれを避ける緊急の必要があるので本件申立に及んだ。」というにある。

よつて按ずるに、申立人は申立人の教育委員会委員の辞職の効力の停止を求めるというのであるが辞職そのものは如何なる意味においても執行停止の対象たる行政処分ではなく、思うにその本旨とするところは申立人の辞職願に対する被申立人らの同意という行政行為の効力の停止を求めるにあるものと解せられるのでその前提の下に以下の判断を進めることとする。

ところで本件当事者間の本案訴訟によれば申立人(原告)は前記申立の理由記載の如く、被申立人らに対し一旦辞表を提出したものの直ちに辞意をひるがえし、これを撤回したのに、その後に至つて同意があつたのであるから右同意に拘らず申立人は三沢市教育委員会委員たるの地位を失うものではないとの理由により、申立人を辞職したものと主張する被申立人らに対し「原告が現に三沢市教育委員会委員の身分を保持することの確認」を求めるのであるが、かような事件についても右同意の効力を暫定的に止めるような仮処分は許されない反面その要件をみたす限りにおいて行政事件訴訟特例法第十条第二項に準じ行政処分の執行停止を求め得るものと解する。

しかしながら行政処分の執行停止は「処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合」に限り許されるべく右損害とは申立人の個人的な権利、利益に関する損害を指称し、申立人挙示のような申立人が三沢市教育委員会に山積した重要案件の解決に委員として関与することができないというような事実は、単にそれだけではこれに当らないと解すべきである。従つて、申立人の本件申立はこの点においてその理由を欠くものであるから却下を免れない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 野沢明)

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